ウェルスジェネレータ(準備室)

2016年6月2日木曜日

ピロリ菌の発見

 一生のうちに潰瘍を患う人が10人に1人の割合でいる。最も典型的な十二指腸潰瘍は、命にか

かわる病気ではないが、ひどい痛みを伴う。長らく潰瘍の原因は謎だった。胃酸のたまりすぎで胃

壁が侵食されるからだというのが伝統的な見解だった。胃酸過多の原因は、ストレスや辛い食品、

アルコールのとりすぎだ。潰瘍の明確な「治療」法はなく、痛みの緩和が中心だった。

 1980年代前半、オーストラリア・パースの医学研究者2人が、驚くべきことを発見した。潰

瘍の原因は細菌だというのだ。2人の名は、バリー・マーシャルとロビン・ウォーレン。彼らは螺

旋状のごく小さな細菌が犯人であることを突き止めた(この細菌は後に「ヘリコバクター・ピロリ」

すなわち「ピロリ菌」と名づけられる)。それは、とんでもない発見だった。潰瘍の原因が細菌

なら治療は可能だ。抗生剤さえ投与すれば、数日で完治する可能性がある。

 しかしながら、医学界はこの発見を歓迎しなかった。ほぼ独力で数億人の患者予備軍に明るい未

来を与えたマーシャルとウォーレンを賞賛する者はいなかった。理由は簡単だ。誰も彼らを信じな

かったからだ。

 細菌説には問題がいくつかあった。1つは常識だ。胃酸は強烈で、ぶ厚いステーキを完全に消化

するし、爪さえ溶かすかもしれない。そんな環境下で細菌が生き延びられるはずがない。サハラ砂

漠で氷につまずくのと同程度に、ありえないというわけだ。

 もう一つの問題は、発見者だった。当時、ロビン・ウォーレンはパースの病院に勤務する病理学

者、バリー・マーシャルは30歳の研究所の研修医で、まだ本物の医師ですらなかった。医学界で

は、重大な発見をするのは大学の博士か、世界一流の大規模な医療センターの教授と相場が決まって

世界の10%の人間が罹る病気の治療法を、研修医が発見することなどありえなかった。

 場所の問題もあった。パースの医学研修医なんて、ミシシッピー州の物理学者と同程度しか信憑

性がない。どこで研究しても科学は科学だが、人間は俗物根性のせいで、科学的発見はしかるべき

場所でなされると思い込む傾向がある。

 マーシャルとウォーレンは、医学誌に論文を掲載することさえできなかった。マーシャルが学会

で自分たちの発見したことを発表すると、聴衆に笑いが溢れた。発表を聞いたある研究者は、こう

感想を述べている。

 「とにかく、物腰が学者らしくなかった」

 公平を期するために言っておけば、聴衆が懐疑的になるのも無理はなかった。マーシャルと

ウォーレンの証拠は、因果関係ではなく相関関係に基づいていたからだ。潰瘍患者のほぼ全員から

ピロリ菌が検出されたとはいっても、ピロリ菌保有者なのに潰瘍がないケースもあった。因果関係

を証明するために罪のない人に菌を投与し、潰瘍ができるかどうか観察するわけにもいかない。

 1984、マーシャルの我慢は限界に達した。ある朝、彼は朝食を抜き、同僚らを研究室に集

めた。そして、同僚らが固唾を呑んで見守る中、約10億個のピロリ菌が入ったグラスの水を飲み

干した。

 「沼の水のような味がした」

 と彼は言う。

 二、三日もたたないうちに、マーシャルは痛みと吐き気をもよおした。胃炎、つまり潰瘍

の初期段階の典型的な症状だ。同僚らが内視鏡で見ると、健康的な桃色だった胃の内壁が、赤く炎

症を起こしていた。そこでマーシャルは抗生剤とビスマス(胃腸薬ペプトビスモルの有効成分)を

一定期間服用し、魔法のように病気を治して見せた。

 劇的な人体実験の後も、戦いは続いた。実験に難癖をつけてきた研究者がいた。マーシャルは本

格的な潰瘍にばる前に治療しているから、本物の潰瘍ではなくただの潰瘍症状だった可能性もある

というのだ。とはいえ、マーシャルの実験は細菌説の支持者を再び活気づかせ、その後の研究で有

力な証拠がどんどん集められた。

 10年後の1994年、米国立保険研究所が抗生剤投与を潰瘍の推奨治療法と認定した。マー

シャルとウォーレンの研究はその後、現代医学のある重要な研究テーマに貢献した。それは、細菌

とウィルスは一般に考えられているより多くの病気を引き起こしているという説だ。今では、子宮

頸癌が伝染性のヒト乳頭腫ウィルス(HPV)によって引き起こされることが知られている。また、

ある種の心臓病は、サイトメガロ・ウィルス(ごくありふれたウィルスで人口の約3分の2が感染

している)と関連づけられている。

 2005年秋、マーシャルとウォーレンは功績が認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

二人には世界を変え、ノーベル賞に値する優れた洞察力があった。それなのに、なぜマーシャルは

細菌を飲まなければ信じてもらえなかったのか?(引用:アイデアの力)

生薬漢方は、くすりではありませんし、サプリでもありません。

胃の自然治癒力を高めてくれます。

厚生労働省認可指定医薬部外品の生薬製剤「イツラック」はこちら

0 件のコメント:

コメントを投稿